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福岡高等裁判所 平成3年(ネ)66号 判決 1992年1月23日

控訴人

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

美奈川成章

森元龍治

被控訴人

乙川一郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人に対し、金三三七万六四九二円及びこれに対する昭和五八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の、その一を被控訴人の負担とする。

本判決主文第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金一八四〇万円及びこれに対する昭和五八年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。」旨の判決を求めた。

第二主張の関係は、次のとおり改め、加えるほか、原判決事実及び理由中の「第二 請求原因」欄記載のとおりであり、証拠の関係は原審・当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

一一枚目裏初行の「密輸」を「密輸入」に、六行目の「フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する」を、「塩酸フェニルメチルアミノプロパンの」に、七行目から八行目にかけての「覚せい剤取締り法」を「覚せい剤取締法」に、一一行目の「一三年」を「一二年」に改める。

二二枚目表四行目の「公判廷を通じて」の下に「、右1と事実関係を同一にする」を加え、同枚目裏末行の「保釈が許可」を「保釈により釈放」に改める。

三三枚目表初行の「第一審の」を「第一審に」に改める。

第三当裁判所の判断

一事実経過についての当裁判所の認定は、次のように加除し、改めるほか、原判決三枚目裏七行目から七枚目表七行目までと同じであるから、これを引用する。

1  三枚目裏七行目の「本件は、」の下に「昭和五八年三月一二日午後五時四〇分ごろ、福岡空港において」を、八行目の「原告が」の下に「夫丙沢二郎ともに事前共謀で」を、九行目の「供述をし、」の下に「控訴人及び丙沢二郎を被告人とする」を、同行目の「証言」の下に「(以下、被控訴人の捜査段階での供述及び刑事公判廷における証言をまとめて単に「被控訴人の供述」という。)」を加え、末行の「容器五本に」を「容器五本及び人参茶の容器二個」に改める。

2  四枚目表初行の「詰め込み」を「詰め替え」に、四行目の「税関支所職員」を「門司税関福岡空港税関支所職員」に、六行目の「BELL」を「BELLS」に、一一行目の「瓶一本」を「瓶二本」に改め、一四行目の「被告は」の下に「右現行犯逮捕にかかる事実につき、」を、末行冒頭の「された」の下に「(以下「本件刑事事件」という。)」を、同枚目裏四行目の「変更された」の下に「(以下、訴因変更後の右両罪の公訴事実を「本件犯行」という。)」を、五行目の「受け、」の下に「控訴期間の経過により」を加え、九行目から一〇行目にかけての「また、本件犯行についての」を削る。

3  五枚目表七行目冒頭に「韓国から」を、一〇行目の「そして、」の下に「昭和五八年」を加え、一二行目の「頼まれて」を「被控訴人が頼んで運び屋として」に改め、同枚目裏三行目冒頭に「福岡」を加え、五行目の「及び朴君子」を削り、一〇行目の「逮捕後」の下に「本件犯行にかかる」を、一一行目の「終始」の下に「右」を加え、一四行目の「控訴事実」を「公訴事実」に、一五行目の「被告人原告に対する」を「控訴人を被告人とする」に改める。

4  六枚目表三行目の「証言」を「公判廷における供述」に、九行目の「そのまま」を「上告期間の経過により、同年六月一〇日」に改め、一〇行目の「甲二」の下に「、四」を加え、同枚目裏六行目の「七通」を「八通」に、「検察官の」を「検察官に」に、一一行目の「以上」を「七、八」に、「甲一六」を「甲一三」に改める。

5  七枚目表四行目の「被告は、」の下に「捜査段階での虚偽の供述及び公判廷での」を、五行目の「丙沢二郎」の下に「を被告人とする刑事事件」を加え、六行目の「告発」を「告訴」に改める。

二捜査段階或いは刑事公判廷において、供述者が虚偽の供述、すなわち自己の記憶に反する事実又は認識に反する意見を供述した場合、それにより被害を被った者は、当該供述者に対し、その損害の賠償を求めることができるものと解するのが相当である。そして、被害者が、供述者の捜査段階或いは刑事公判廷における供述が核心部分について到底信用に値しないことを証明した場合、当該供述は、当該供述者の虚偽にでたものと推認され、当該供述者が、自己の記憶又は認識を真実であると誤信したのも止むを得ないこと、あるいは自己の記憶又は認識に反して供述するのも止むを得なかったこと等の特段の事情の存在を証明しない限り、同人は、主観的にも自己の記憶に反する事実或いは認識に反する意見を供述したものと推認するのが相当である。

本件について、これを検討するため、被控訴人の供述内容の要旨についてみるに(甲二、一〇ないし二二、二四)、その認定は、次のように改め、加除するほか、原判決九枚目裏七行目から一一枚目裏二行目までと同じであるから、これを引用する。

1  九枚目裏七行目の「被告は」から一一行目の「親しくなり」までを「被控訴人(昭和一六年一月二〇日生)は、昭和五六年、韓国人の丁海秋子と再婚して同女を日本に迎えたが、同女は、日本語もほとんど話せないまま日本と韓国を往来して商品を売り捌く、ポッタリと称する仕事をしており、同じくポッタリをしていた控訴人(一九四〇年二月二五日生)(同女も韓国籍で昭和二六年(一九五一年)来日し、昭和三六年韓国籍の丙沢二郎と婚姻し日本に長年居住している。)と昭和五七年夏ごろ知り合い、妻同士を通じて、被控訴人と丙沢二郎も知り合い、家族ぐるみで交際するようになった。被控訴人は、同年九月中旬ごろ、暴力団組員らに納めることになっていた覚せい剤を予定どおり渡せず、暴力団から覚せい剤の現物の交付あるいは前に渡されていた覚せい剤購入代金の返還を迫られて苦慮し、丙沢二郎にその解決方を依頼して同人もこれを承諾し、その解決方法として、被控訴人が同月一三日、丙沢二郎と丁海秋子が翌一四日それぞれ渡韓し、丙沢二郎及び被控訴人は、丁海秋子の義兄戊三郎らを介して覚せい剤約一キログラムを入手し、同月一八日、丙沢二郎及び被控訴人においてこれを空路福岡空港に持ち込んだのを手始めに」に改め、一三行目の「売店で」の下に「、外から中身が見えない」を加え、一五行目の「隠し」を「詰め替えて」に、末行の「密輸」を「密輸入」に改める。

2  一〇枚目表三行目の「田中某や」の下に「、筑後地方の」を加え、五行目及び一〇行目の各「密輸」を「密輸入」に改め、一五行目の「被告は」の下に「同月」を加え、同枚目裏一〇行目の「密輸」を「密輸入」に、一四行目冒頭の「あるとして」を「あることを慮って」に改める。

3  一一枚目表七行目の「メタクサ二本」の下に「、ベル一本」を加え、九行目の「前金二〇〇万円と手紙」を「久留米で若い男から託された韓国語で書かれた手紙をまず渡し、これを読み終えた同女に前金二〇〇万円」に改め、一二行目の「ベル一本」を削る。

三次に、被控訴人が、捜査段階或いは控訴人を被告人とする刑事公判廷において、自己の記憶に反する事実又は認識に反する意見を供述したかどうかについて検討するに、その認定判断は、次のように加除し、改めるほか、原判決一一枚目裏七行目から一七枚目表一四行目の「投げかけている。」までと同じであるから、これを引用する。

1  一一枚目裏八行目の「密輸入の」の下に「運び屋」を加える。

2  一二枚目表初行末尾の「被告との」から三行目の「ことはない」までを「被控訴人と(ときには秋子とも)共謀して覚せい剤を密輸入した際、丙沢二郎と被控訴人は一緒に渡韓するか、韓国で落ち合うかし、資金を調達した丙沢二郎が、同国内で手配して入手した覚せい剤を、被控訴人は、洋酒瓶に詰め替えて韓国から本邦に飛行機で密かに運び込み又は包装する等につき丙沢二郎を手助けしていたにすぎず、同人が知らない者に手伝いをさせたことも、被控訴人のみに覚せい剤の密輸入をさせたこともなかった(昭和五七年度中に、被控訴人が丙沢二郎と関与した覚せい剤の密輸入について、控訴人が現実に関与したことがないことは、被控訴人も認めるところである。)(甲一六ないし一八、二〇、当審証人丙沢二郎の証言)」に改め、六行目の「不自然である」から九行目の「であるから」までを「不自然であるのみならず(甲一七、一八、二〇)」に改め、一一行目の「原告は」を「丙沢二郎及び被控訴人の共同による覚せい剤の密輸入は」に改め、末行の「前から」の下に「被控訴人が単独で」を、同枚目裏二行目冒頭の「ば、」の下に「丙沢二郎とは無関係に」を、五行目の「被告は、」の下に「公判段階(昭和五八年七月二八日の第一審の第三回公判(甲一七)及び昭和五九年九月四日の第二審の第二回公判(甲一九)では、)」を、六行目の「二日」の下に「午後六時ごろ」を加え、「供述しているが」を「供述し」に改め、八行目から九行目にかけての「同日に丙沢二郎も渡韓しているから」を「同日午前中に丙沢二郎も長男と当時一九歳の二男を連れて渡韓している(帰国日は同月五日)から(当審証人丙沢二郎の証言、甲二三、二四、二六)」に改め、九行目の「三月三日」の下に「の午後六時ごろ」を加え、一二行目の「捜査段階から」を「捜査段階では」に改め、一四行目の「調書」の下に「(甲一三)」を加え、一五行目の「記憶」から末行の「信用すべきであり、」までを削る。

3  一三枚目表二行目の「のが合理的」を「ことも可能」に、五行目の「従前、報酬については、被告と丙沢二郎との間では」を「昭和五七年中、数回にわたって被控訴人と丙沢二郎とが覚せい剤を共同して密輸入したときは、ほとんどの場合事前に渡韓日時等につき両名で打ち合わせ、同人から被控訴人に報酬あるいはその一部が渡されており、報酬額については」に改め、七行目の「であったが」の下に「(甲二〇)」を加え、八行目冒頭から九行目の「依頼も」までを「被控訴人が、同人を除者にして丙沢二郎が覚せい剤を密輸入していたことを突き止め、同年一二月ごろ、これを難詰したためか、同月二〇日以降、同人から両名で共同して覚せい剤を密輸入する話が」に、一〇行目の「輸入をしていたというのである」を「密輸入をしていたというのである(甲一三、二〇)」に、末行の「第一審」を「本件刑事事件の第一審」に改め、同枚目裏二行目の「量」の下に「、資金額及び報酬額」を、三行目冒頭の「てはいない」の下に「とか、最低四キログラムは持ってくるつもりだった」を加え、八行目の「なくもない」を「ある」に改め、一二行目の「前述」から一四行目の「であるが、」までを削る。

4  一四枚目四行目の「そして、」の下に「覚せい剤購入代金」を加え、一一行目の「覚せい剤の入手等」を「覚せい剤入手の手配」に、一四行目の「密輸」を「密輸入」に、同枚目裏初行末尾の「の金」を「購入代金」に改め、四行目の「あるが」の下に「(甲一六、一七、二〇)」を加え、七行目の「福岡市」を「福岡県糟谷郡古賀町(当時の控訴人・丙沢二郎夫婦の住所地)」に、一〇行目の「託したと」を「四〇〇万円の大金を託し、しかも、同人に預ける旨を前もって被控訴人に連絡もしていない」に、一五行目の「空港」を「金海空港」に改め、末行の「女性に」の下に「、まず同日午前中に西鉄久留米駅前で会った男から預かった手紙を渡し、それを読み終えた同女に、裸金で」を、「のであるが」の下に「(甲一八ないし二〇)」を加える。

5  一五枚目表三行目の「甲二」の下に「、二〇」を、六行目の「供述」の下に「(本件刑事事件の第一審第二回公判(昭和五八年七月二一日)における供述、甲一六。同第二審第二回公判(昭和五九年九月四日)における供述、甲一九)」を、七行目の「供述」の下に「(捜査段階における昭和五八年三月二九日付け供述調書。甲一三及び本件刑事事件の第一審第七回公判(昭和五八年一〇月二四日)における供述、甲一八)」を加え、八行目の「密輸」を「密輸入」に、同枚目裏四行目の「前に」から一四行目末尾までを「このように重大な事実関係につき、合理的な説明なくして供述を変遷させる被控訴人の供述態度そのものに疑問があり、信をおけないのは当然のこととして、自己の記憶に反し、虚偽の供述をしているから、かかる説明困難な事態に逢着するのではないかとの感を禁じ得ない。」に改める。

6  一六枚目表五行目の「また、」の下に「被控訴人の供述を前提にすれば、」を加え、一〇行目末尾の「しか」から一四行目の「推測される。」までを削り、同枚目裏七行目の「供述調書」の下に「(甲一三)」を加える。

7  一七枚目表二行目の「密輸入について」の下に「、その方法がメタクサの瓶を利用してすることを含めかなり」を加え、一〇行目の「また」から一一行目末尾までを削る。

四以上の認定、判断によれば、本件刑事事件の公訴事実では、被控訴人は本件犯行の実行正犯者、控訴人及び丙沢二郎は共謀共同正犯者であったというのであり、被控訴人は現行犯で逮捕されてほどなく、控訴人及び丙沢二郎が共謀共同正犯者であったとして両名が関与した具体的事実関係を供述し始めたのであるから、同事実関係につき、過失によって虚偽の供述をすることはありえないと解されるところ、被控訴人の捜査段階及び刑事公判廷における詳細な供述は、「丙沢二郎への架電の時期」についての供述の一部において混乱するが、その内容からして記憶の混乱による蓋然性もたかく、この混乱をもって、意識的な虚偽の供述として被控訴人の供述全体の真偽を云々するのは当を得ないが、その余の核心部分たる事項、すなわち、「李四郎への依頼について」、「丙沢二郎との覚せい剤密輸入についての取り決め」、「控訴人との資金の授受」、「金海空港での現金の受渡し」、「帰国の延期」、「当初共犯関係を供述しなかった理由」について、随所にその信用性に多大の疑いを挟む余地があり、また、被控訴人の供述を前提とすれば、本件犯行は、控訴人・丙沢二郎夫婦には危険のみあって利益はなかった話であり、しかも、昭和五七年一二月以来被控訴人を信用しなくなっていた丙沢二郎を、昭和五八年三月二日、被控訴人が脅迫して承諾させたことに本件犯行は起因するというのであるから<書証番号略>、同月五日、被控訴人が覚せい剤密輸入を中止する旨の電話を丙沢二郎に入れたとすれば、同人夫婦は喜んで中止方を受け入れると思われるのに、同人に代わって電話に出た控訴人がこれを拒否したというのも不可解である。

以上の点を彼此勘案すると、被控訴人の右核心部分に関する供述のほとんどは、到底信用に値せず、控訴人(及び丙沢二郎)が、本件刑事事件において無罪判決の言渡しを受け、同判決が確定した(丙沢二郎は別件で有罪判決が確定した。)のは当然のことであった。そうすると、被控訴人は、捜査段階及び刑事公判廷において、本件犯行の事前共謀の核心部分につき、自己の記憶に反する事実又は認識に反する意見を供述したものと推認される。

そこで、次に、被控訴人がそれを真実であると誤信したのも止むを得なかったことあるいはかかる供述をしたのも止むを得なかったこと等の特段の事情があるかどうかを検討するため、被控訴人の供述のほかに、丙沢二郎及び控訴人が本件犯行に事前共謀による共謀共同正犯として加担したことを首肯せしむるに足りる証拠があるかどうかについて検討を加えるに、これについての認定判断は、次のように加除し、改めるほか、原判決一八枚目表一三行目から二三枚目表一三行目までと同じであるから、これを引用する。

1  一八枚目表一四行目の「するならば、」の下に「本件犯行について」を加え、同枚目裏五行目の「被告」を「被控訴人は」に改め、一二行目末尾の「もっと」から末行末尾までを削る。

2  一九枚目表一四行目の「も否定できず」から末行の「ところである」までを「も否定できないが、前年、数回にわたり乙川と韓国から覚せい剤を密輸入したことがあり、戊三郎とも面識のある丙沢二郎が本件のみならず、前年の覚せい剤の密輸入について嫌疑が及ぶことを懸念して戊三郎に事情を聞きに出掛けたとしても必ずしも不自然ではないから、このことから直ちに丙沢二郎、したがって、当然のこととして同人の妻である控訴人が本件犯行に関与していたものと断定するわけにはいかない。」に、同枚目裏六行目の「可能性があり」から九行目末尾までを「可能性も否定できない。しかしながら、被控訴人は、資金さえあれば、被控訴人単独でも、戊三郎を通じて韓国内で覚せい剤の入手が可能であったことを認めていること(甲一七、一九、二一)に照らすと、右可能性はさほど大きくない。」に、一一行目の「原告が」から一二行目末尾までを「昭和五八年一月二〇日ころ、秋子が被控訴人と離婚したとい言って控訴人宅に身を寄せたとき、控訴人が離婚を勧め、その際に、被控訴人の足が不自由なことをあげつらって、他にも男はいるではないか等被控訴人を軽蔑したこと(甲七の一二、甲二〇)」に改める。

3  二〇枚目表初行の「覚せい剤」の下に「の密輸入」を、二行目の「甲二」の下に「、一九ないし二一」を、三行目の「ないが、」の下に「同人の妻である」を、七行目の「被告が」の下に「、丙沢二郎のみならず」を、一一行目の「以前に」の下に「暴力団」を加える。

4  二一枚目表初行の「ところが」から六行目の「また」までを「しかしながら」に、八行目の「否認していた」を「当初は認めていながら、後日否認に転じた」に改め、同枚目裏七行目の「供述によれば、」の下に「昭和五八年三月当時」を、九行目の「わざわざ」の下に「被控訴人が」を、一〇行目末尾に「しかしながら、前記のとおり、秋子と控訴人はともに韓国人であり、両名は昭和五七年夏ごろから親密な交際を続け、昭和五八年一月には、秋子から被控訴人との離婚問題で相談を持ち掛けられたりなどしており、日本語をほとんど話せない同女にとって、控訴人は日本での頼れる友人、知人の関係にあり、被控訴人もこのことは充分に知っていたと推認されるのであるから、被控訴人が秋子の重大疾病の発生を控訴人に電話で知らせたとしても不自然ではないとの理解も可能である。」を加え、一四行目の「二三日頃」を削る。

5  二二枚目表二行目の「三本」を削り、三行目の「あること」の下に「(いずれも昭和五八年四月八日付け司法警察員にたいする被控訴人の供述調書、甲一四)」を、六行目の「なっており」の下に「(甲一六)」を、九行目冒頭の「過ぎない」の下に「(甲一六ないし一八)」を加え、一二行目の「行動であり」から一五行目末尾までを「行動であると推測できないわけではないが、他方で、被控訴人は、本件刑事事件の第一審第二回公判では、メタクサの瓶の中に覚せい剤が入っていたことを控訴人が知っていたかどうかについては曖昧な供述をしている(甲一六)。)」に改め、同枚目裏六行目の「買い求め」を削り、一〇行目の「密輸」を「密輸入」に改め、一三行目冒頭に「の密輸入」を加え、「極めて不自然である。」を「信じ難く、」に、末行の「疑わせるに十分である」を「推測されても仕方がない」に改める。

6  二三枚目表初行の「本人尋問の際に」を「刑事事件における被告人供述において」に、三行目の「。しかしながら」から一三行目末尾までを「ことで、右疑問を払拭できるものとはいえないとしても、このことから、本件犯行についても、控訴人・丙沢二郎夫婦が事前共謀で関与したということを推認させることにならないのはいうまでもない。」に改め、一三行目の次に改行して次を加える。

「6 しかも、前記のとおり、従前、丙沢二郎が被控訴人と(ときには秋子とも)共同して覚せい剤を密輸入した際、丙沢二郎と被控訴人は、一緒に渡韓するか韓国で落ち合うかし、資金を調達した丙沢二郎が同国内で覚せい剤を手配して入手し、被控訴人はその運搬、包装を手助けしていたにすぎず、被控訴人供述のように、被控訴人が丙沢二郎・控訴人夫婦から四〇〇万円もの大金を預かり、単独で終始行動したことはないのである。

以上のように検討してくると、被控訴人の供述を除けば、控訴人はもちろんのこと、丙沢二郎が本件犯行に事前共謀により加担したことを首肯せしむるに足りる証拠は皆無に等しいこと、控訴人が主張する被控訴人の虚偽供述の動機については、やや弱くはあるがこれを認め得ないでもないこと、本件犯行は被控訴人の背後に第三者が存在するのではないかと推認されるが、当該人物を特定できる証拠はないこと、丙沢二郎及び控訴人の供述がすべて信用できるというわけでもなく、本件犯行前の丙沢二郎及び被控訴人による覚せい剤の密輸入について控訴人の関与を疑わせる事実が皆無であったわけではないが、これも論理的な可能性としていえるにすぎず、確たる証拠があるとはいえないこと、この点を別にしても、本件犯行は、丙沢二郎と被控訴人との事前共謀が立証できない限り成立しえない関係にあること、以上の点を彼此斟酌すると、被控訴人が自己の供述を真実であると誤信したのも止むを得なかったこと、あるいは自己の記憶又は認識に反して供述するのも止むを得なかったこと等の特段の事情があるというにはほど遠く、他に、これを首肯せしむるに足りる証拠はない。被控訴人は、刑事事件の証人尋問の際にも、民事事件たる本件の第一審における本人尋問の際にも、丙沢二郎及び控訴人やその弁護人の尋問に対する場合のみならず、裁判官の尋問に対しても、随所に、投げやりな態度での応答をし、真摯に自己の主張を根拠づける供述をしていないことが認められることに照らすと、右の結論に消長を来さないものと解される。

そして、以上の認定判断によれば、被控訴人の捜査機関に対する虚偽の供述をもとに、控訴人は本件犯行の事前共謀者として逮捕、起訴され、本件刑事事件の公判における被控訴人の虚偽の供述をもとに、控訴人は同事件第一審判決で、懲役六年の実刑判決を宣告され、昭和六〇年七月二三日保釈により釈放されるまで八二三日間以上にわたって身柄を拘束され、以後、昭和六二年六月一〇日無罪判決を宣告され、同判決が確定するまで、刑事被告人として長期にわたって精神的な苦痛を被ってきたものと認められるところ、これら長期身柄拘束及び精神的苦痛と、被控訴人の捜査・公判段階における虚偽の供述との間には相当因果関係があると認められるから、被控訴人は、控訴人に対し、右虚偽供述により控訴人に生じた後記損害を賠償する責任があるものというべきである。」

五損害

控訴人は、昭和六〇年七月二三日まで、その主張どおり八二三日間(二年と九二日)以上の長期にわたって逮捕、勾留され、無罪判決確定後、福岡高等裁判所において、昭和六二年一二月八日刑事補償金として三七二万円、刑事費用補償金として一〇〇万三五〇八円を交付する旨の決定がされ、右金員が昭和六三年一月一一日支払われたことが認められる(前記認定事実、<書証番号略>)。

ところで、控訴人は、昭和五八年三月当時、前記認定のポッタリと呼ばれる商売をして月一〇万円を稼いでいたと認められる<書証番号略>から、右八二三日間(二年と九二日間)で二七〇万円を下らない収入を得ることができたものと推認される(計算は、一二〇万円×(二+九二÷三六五)≒=二七〇万二四六五円となる。)ところ、弁論の全趣旨によれば、右刑事補償金三七二万円との差額一〇二万円は、後記慰謝料から控除することは、控訴人も異存がない趣旨と解される。

そして、右八二三日間の身柄拘束及び昭和六二年六月一〇日無罪の判決を宣告されるまで、刑事被告人として長期にわたって被ってきた控訴人の本件事案における精神的苦痛に対する慰謝料としては三〇〇万円を相当と思料するので、被控訴人は、控訴人に対し、右三〇〇万円から右一〇二万円を引いた慰謝料残金一九八万円を支払うべきである。

さらに、請求原因三、3の事実は当事者間に争いがないから、刑事事件における弁護人に対する費用として、控訴人は、被控訴人に対し、二四〇万円を請求できる筋合いであるが、控訴人は、刑事費用補償金として一〇〇万三五〇八円を受領していることを自認している(そのうち九〇万五七九八円は刑事事件の弁護人に対する費用と認められ<書証番号略>、うち九万七七一〇円は、前同様、前記慰謝料から控除することは、控訴人も異存がない趣旨と解される。)。

そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、合計三三七万六四九二円(計算は、一九八万円+二四〇万円−一〇〇万三五〇八円=三三七万六四九二円となる。)及びこれに対する本件不法行為後である控訴人主張の昭和五八年四月一四日(控訴人が逮捕された日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

六まとめ

よって、控訴人の本訴請求は右五の限度で理由があり、正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきものである。したがって、これと異なり、本訴請求を全部棄却した原判決は一部不当であるから、これを右の趣旨に従って変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鎌田泰輝 裁判官川畑耕平 裁判官簑田孝行)

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